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【後編】ドローンを支える“見えない発明”(その2)|磁石

ドローンが空を飛び、安定した映像を撮影できるのは、機体の中で回り続けるモーターのおかげです。そして、そのモーターを支えているのが「磁石」という存在です。

前編では、ネオジム磁石が従来の磁石よりも圧倒的に強力であること、そしてそのおかげでドローンが小型でありながらパワフルかつ高い応答性を実現できていることを解説しました。

 

▶︎【前編】ドローンを支える“見えない発明”(その2)|磁石

 

後編となる本記事では、その一方で避けられない弱点である「高温に弱い」という性質に焦点を当て、ドローンにおけるリスクや、弱点を克服するための工夫についてご紹介します。

 

「高温に弱い」という磁力の弱点

ネオジム磁石は小型で強力という大きなメリットを持ちますが、唯一ともいえる致命的な弱点があります。それは「高温に弱い」という点です。モーターが熱を帯びると、磁石の力が落ちてしまうのです。

力が弱まれば同じ推力を出すためにより多くの電流が必要になりますが、電流を増やすと、コイルの銅線で発生する熱(銅損)が急激に増加します。

するとさらに温度が上がり、磁石が弱くなるという悪循環に陥ります。最悪の場合、モーターが焼け付いて動かなくなる危険性もあるのです。

特にドローンは機体が小さく、冷却ファンやラジエーターのような大型の放熱装置を搭載できません。そのため「熱」は深刻な課題でした。

 

キュリー温度と減磁の違い

磁石が高温で力を失っていく現象を「減磁」と呼びます。減磁にはいくつかの段階があり、状況によっては元に戻りません。

 

可逆的減磁(80〜150℃前後 / 一時的):一時的に磁力が下がりますが、冷めればある程度は回復します。
不可逆的減磁(150〜200℃以上):磁石内部の「磁区」と呼ばれる構造が崩れ、元に戻らなくなります。
キュリー温度(約310〜350℃ / Nd系):磁石の性質そのものが失われ、完全にただの金属になってしまいます。

 

真夏の直射日光下や過負荷でのドローン飛行では、可逆的減磁は現実的なリスクと言える温度帯です。

磁石の磁力自体が可逆的であっても、飛行中に減磁すれば、上記のスパイラルに入ります。

ただし、上記はネオジム磁石での目安です。現実のモーターでは設計時に工夫が施されており、安全な飛行が実現されています。

設計時の工夫については、本記事内で後述します。

 

ドローン運用で想定されるリスク

実際の空撮の現場では、磁石の弱点は「運用リスク」として現れます。

例えば、炎天下で長時間の撮影を行うとモーターが高温になりやすく、推力が低下することでドローンの安定性が損なわれます。結果として、ブレの多い映像になったり、飛行時間が予定より短くなったりします。

さらに悪化すると、モーターが停止して墜落する危険性も考えられるのです。

 

設計時の工夫

設計者はネオジム磁石の「高温に弱い」という弱点と、どのように向き合っているのでしょうか。答えは「素材・構造・制御」の三方向からの工夫です。

 

素材改良

実際のモーター設計で施されている対策として代表的なのが「素材改良」です。

ネオジム磁石にディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった元素を少量添加することで、高温環境でも磁力が落ちにくくなります。これにより、夏場の飛行や高負荷時でも安定した推力の維持が可能です。

なお、具体的な磁石の材質配合については各メーカーの技術秘密にあたるため公開されていません。

※実際にDJIへ問い合わせた際も「設計上の機密」として、非公開との回答がありました。それほどまでに、磁石の改良は性能を左右する重要なポイントです。

 

冷却構造

モーター自体に風を通す冷却設計を取り入れたり、放熱性の高い素材を採用したりして、効率的に熱を逃がす仕組みを備えています。

小型の機体でも可能な限り冷却性を高めることで、減磁のリスクを抑えています。

 

制御システム

モーターやバッテリーの温度をセンサーで監視し、危険な温度に近づいた場合は自動的に出力を下げる仕組みが搭載されている場合もあります。これにより、過熱によるモーター焼損や墜落を未然に防ぐことが可能です。

 

まとめ

前編・後編と2記事にわけて、ドローンを支える“見えない発明”である「磁石」についてご紹介しました。

 

▶︎【前編】ドローンを支える“見えない発明”(その2)|磁石

 

後編では、ネオジム磁石の弱点である「高温に弱い」という宿命的な性質に焦点を当てました。

モーターの過熱により減磁や推力不足につながるリスクがある一方で、設計者たちは素材改良や冷却構造、制御システムといった多層的な工夫によって、この課題を克服しています。

見えない場所で支え続ける磁石と設計者の努力があるからこそ、ドローンは安心して飛び続けています。これからも、私たちの暮らしや表現の可能性を広げていくでしょう。

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