コラム
【前編】ドローンを支える“見えない発明”(その2)|磁石
投稿日/2025.09.29
磁石と聞くと「地味」「昔からあるもの」と感じる方も多いかもしれません。けれど実際には、現代文明の根幹を陰で支えている立役者です。
特に「ネオジム系」と呼ばれる強力な永久磁石が登場・普及したことで、私たちの暮らしにある無数の機械が劇的に変化しました。
家電や電気自動車、そして空を飛ぶドローンまでも、その小さな磁石の力なくしては成り立ちません。
前編となる本記事では、ドローンのモーターに欠かせない「ネオジム磁石」が、なぜ現代の飛行や空撮を支えているのかを解説します。
洗濯機からEVまで、磁石が変えた機械たち
私たちの身近にある洗濯機、エアコン、冷蔵庫。これらの家電に組み込まれているモーターは、いまやほとんどが「ブラシレスDCモーター(BLDCモーター)」です。そのローター内部には、強力なネオジム磁石が使われています。
従来のフェライト磁石では、十分な力を得るためにはモーター自体を大型化する必要がありました。ところが、ネオジム磁石の登場によって、小さくても力強い・高効率・静かなモーターが実現したのです。
この技術革新は家電だけにとどまらず、自動車業界にも波及しました。ハイブリッド車や電気自動車の駆動モーターも、ネオジム磁石を使った高出力モーターなしには成立しません。
そして今、私たちが使うドローンのパワーユニットも、同じ仕組みによって動いているのです。
ドローンなどの機械に、なぜ強力な磁石が必要だったのか
モーターは「電気と磁石の力で回る」装置です。コイルに電流を流すと磁界が発生し、それが永久磁石と作用して回転力(トルク)が生まれます。
このとき、トルクを決めるのは「磁束密度(B)」と「電流(I)」です。磁束密度が大きいほど、同じ電流でも大きな力を取り出せます。つまり、磁石が強ければ強いほど、少ない電気で効率よくモーターを回せるのです。
逆に、電流を無理に増やすと損失(発熱)が急増してしまいます。そこで登場したのが、従来の磁石の数倍以上の磁力をもつネオジム磁石。これにより、モーターは小型化しつつ高出力を維持できるようになりました。
家電が省エネ化し、自動車が電動化できたのもこの磁石のおかげです。そして、ドローンもまた、ネオジム磁石なしには、現在の性能を発揮できません。
ドローンにとっての必須条件
ドローンは、ただ空を飛ぶだけではなく、安定して「静止」したり、狙った方向へ「素早く」動いたりしなければなりません。そのために求められる条件は次の3つです。
■ 小型で軽量なモーター:機体全体を軽くしないと長時間飛行できないため。
■ 高効率なモーター:限られたバッテリーを最大限に活かすため。
■ 高い応答性:一瞬で出力を変え、機体の姿勢を保つため。
ネオジム磁石を用いたモーターは、これらすべてを実現できます。ドローンの飛行性能や空撮の安定性は、この小さな磁石に支えられているのです。
応答性がもたらす空撮の安定性
とくにドローンにとっては応答性が命です。
ドローンのプロペラは、常にわずかな回転数の上げ下げを繰り返しています。ほんの一瞬でもモーターが鈍れば、機体はバランスを崩し墜落してしまいます。指令に瞬時に反応できるのは、強力な磁石を内蔵したモーターだからこそです。
これはジンバル(カメラのブレ防止機構)でも同じです。かつてはギヤ付きのサーボモーターで動かしていましたが、遊びや遅れがあり、細かなブレを抑えるのは困難でした。
現在はネオジム磁石を使ったモーターのダイレクト駆動が主流となり、映像は滑らかに、そして素早く補正できるようになりました。
つまり、私たちが普段見ている安定した空撮映像の裏には、強力な磁石の応答性が欠かせません。
まとめ
ネオジム磁石は単なる「くっつく金属」ではなく、現代のあらゆる電動機械を成立させている根幹部品です。
■ 家電を小型・省エネに
■ EVやドローンを高出力・高効率に
■ ジンバルやロボットを精密・高応答に
ネオジム磁石の登場によって、ドローンは小さくても力強く、効率よく、そして精密に飛行できるようになりました。家電やEVと同じように、空撮の世界でも「強い磁石」が革命をもたらしたのです。
後編となる(その2)では、このネオジム磁石が持つ弱点である「高温に弱い」という宿命と、それに立ち向かう設計者の工夫について解説しています。
▶︎ 【後編】ドローンを支える“見えない発明”(その2)|磁石
ぜひ併せてご覧ください。